【注目新刊】「教授」と呼ばれた男 坂本龍一とその時代

タイトル 「教授」と呼ばれた男 坂本龍一とその時代
著者 佐々木敦/著
出版社 筑摩書房
発売日 2024年4月9日
税込価格 3,190円
多面性にみちた音楽家の全体像、その本質

音楽シーンを大きく変えたYMOの一員として活躍する以前、「教授」と呼ばれるようになる前の少年時代から、「脱原発」など社会運動へのコミット、そして、静謐そのものと言うべき生前のラストアルバム『12』のリリースまで――。

『戦場のメリークリスマス』テーマ曲をはじめ、時代を超える名曲の数々を生んだ無二の音楽家は、移り変わる時代精神といかに対峙し、音を紡いでいったのか? その根底には何があったのか? 解かれるべき謎、魅惑的な秘密に迫った、著者渾身の批評の書!

《彼に教わったことが、いったいどれだけあることだろう。それは音楽だけではない。芸術や文化にかんすることだけでもない。知識や教養、スコラに属することだけでもない。他者との関係、社会との関わり、世界への態度、生きること、そして、死ぬことも。教えを授けるつもりなど、彼にはなかっただろう。だが私たちは彼から学んだのだ。》――本文より

【目次】
はじめに 「坂本龍一」と私
私の「耳」を通した坂本論を/二人の「坂本」/「親友」カールステン・ニコライ/坂本龍一が生きた時間/『12』の曲順に秘められた哲学

第一章 「教授」以前の彼
近くて遠い存在だった父親/生まれて初めての作曲/ビートルズ、ドビュッシー、「独特の匂いを放つ」本たち/デモとジャズと世界認識と/新宿高校でのストライキ/ジョン・ケージの衝撃/「音楽活動」と「社会活動」/「人民の音楽」という思想/「芸大作曲科在学中のピアノ弾き」/「色彩」「音色」という問題意識/「西洋音楽=現代音楽」への幻滅/山下達郎、細野晴臣、矢野顕子との出会い/アヴァンギャルドという第三項/最初のアルバム、『千のナイフ』/傑作『海や山の神様たち』への参加/『千のナイフ』に注ぎ込んだ三三九時間/「THOUSAND KNIVES」と「ISLAND OF WOODS」/高橋悠治とのデュオ/東の果て、そしてその終焉/「この形でいいんだ」/「教授」の名付け親、高橋幸宏/音響合成者、音響想像者/青臭さと老成、絶望と達観/『千のナイフ』の姉妹編/細野晴臣の「イエロウ・マジック」

第二章 「イエロー・マジック」との闘い
「伝説のこたつ集会」/それぞれの音楽性/全米デビュー/ポップ・ミュージックという共通言語/「イエロー・マジック」との闘い/「フュージョン」という「毒」/「イエロー・マジック」、再考/海の向こうから見たニッポン、という視角/「反・YMO」の狼煙/苦肉の策から生まれた『増殖』/パンク・ムーヴメント/ソロ第二作『B― 2 UNIT』/ポスト・パンクでニューウェーブでノーウェーブな音楽/ダブ受容の最良の成果の一つ/剝き出しの「解体への意志」/BGMにはなり得ない『BGM』/The End of YMO の予感/「テクノ+サイケデリック」=『テクノデリック』/「幸せな雰囲気すらある」『左うでの夢』/暗く過激な音楽から明るく過激な音楽へ/「い・け・な・いルージュマジック」の誕生/『戦場のメリークリスマス』への出演、そして音楽提供/俘虜収容所での「男たちの物語」/坂本龍一、デヴィッド・ボウイ、ビートたけし/セリアズとヨノイのキスシーン/忘れがたき旋律/ベルトルッチ監督との出会い/YMO的戦略と「君に、胸キュン。」/YMOミーツ歌謡曲、『浮気なぼくら』/一九八三年、「散開」宣言/映画『プロパガンダ』/村上春樹の坂本龍一論/ポスト・パンクの申し子、YMO/ふたたび、ひとりに

第三章 「音楽図鑑」の時代
浅田彰と「メタリックな音楽」/無意識の音楽、『音楽図鑑』/テクノロジーの「進化」と「TV WAR」/「メタリックかつニュメリック」な『Esperanto』/本本堂という出版社/坂本龍一の「創作ノート」/一九八六年の『未来派野郎』/未来派のビジョンとTOKIO/フェリックス・ガタリとの対話/『未来派野郎』のテンションの高さ/『ラストエンペラー』、ベルトルッチからのオファー/映画音楽への無理難題/「世界のサカモト」の誕生/虚構としての〝お約束〞と文化の壁/ビル・ラズウェルと『NEO GEO』/「共同体の音楽」へのリスペクト/ゴージャスで文化横断的な『BEAUTY』/「みんなで出ちゃおうよ」――「アウターナショナル」という感覚/苦楽を共にしてきた生田朗の死/映画『シェルタリング・スカイ』の音楽/「移住者の匂い」/一九九一年の『Heartbeat』

第四章 「J」との遭遇
YMOの「再生」と『TECHNODON』/「Jポップ」に挑戦した『Sweet Revenge』/GEISHA GIRLS、そして小室哲哉/「Jポップ」への更なる挑戦、『Smoochy』/中谷美紀というミューズ/若者文化の〝祭り〞、そして内閉化/全国ツアー「坂本龍一PLAYING THE ORCHESTRA “f ”」/『BTTB』という「原点回帰」/「できてしまうこと」と「やりたいこと」/「破壊の世紀」と対峙した『LIFE』/「衝突」「軋轢」「齟齬」というテーマ/村上龍が書き下ろしたテクスト/マルチメディアによる「引用の織物」/「ポストモダン」の音楽家

第五章 調べから響きへ
「9・11」の衝撃/「非戦」というメッセージ/二〇〇二年の『ELEPHANTISM』/アルヴァ・ノトとデジタルな唯物論/不可逆的な変化が刻まれた『CHASM』/クリスチャン・フェネス/社会運動へのコミットメント、そして新レーベルの設立/ダムタイプの高谷史郎とのコラボ/「形がない空気の振動」が音/もっとも純粋で真正な他者愛/「schola」という「啓蒙」プロジェクト/「一枚の絵」のような『out of noise』/アルバムリリースのペースダウン/「社会的活動」という「行きがかり」/坂本龍一の「愛国」/ガン宣告、そして『レヴェナント』の音楽制作/「非同期」の音楽、『async』

第六章 彼の最後の歌
病と闘いながら/「いま時間が傾いて」/「時間は幻想である」――『TIME』/最後に残してくれた歌、『12』/「ダムタイプ|2022:remap」、そして都知事宛ての手紙/外へ、外へ、外へ/音楽と満月

おわりに 坂本龍一と私