【注目新刊】鈴木家の箱

タイトル 鈴木家の箱
著者 鈴木麻実子/著
出版社 筑摩書房
発売日 2023年10月16日
税込価格 1,980円
ずっとジブリが好きではなかった――。

スタジオジブリのプロデューサー鈴木敏夫の娘で、『耳をすませば』のカントリー・ロードの訳詞を手がけた著者による、初めてのエッセイ集。あの詞は、どのようにしてできたのか。宮﨑駿、久石譲、そして鈴木家に集まる面々との思い出たちを綴る。

一日、ギターを手に取って、考えるよりも前にカントリー・ロードを歌います。それで今日の気分と体調を測ります。わたしの居場所を毎日この曲に教えてもらっています。
――米津玄師

こんなことを書くなんて、親の顔が見てみたい。父より
――鈴木敏夫

……家でくつろいでいると宮﨑さんから電話がかかってきた。
宮﨑さんから電話がかかってくるなんて初めてのことで、恐る恐る電話に出た私に宮﨑さんは開口一番「なんであんな歌詞が書けたんですか?」と言った。
「なんで書いたんですか?」ではなく、「なんで書けたんですか?」と言ってくれたその言葉は、賞賛に聞こえた。
でも私は「ただ思い浮かんできたから」と答えるしかなかった。宮﨑さんは「うーん……うーん」と電話口で小さくうなり声をあげて「僕の作った歌詞を聞いてください」と言った。
「コンクリート・ロード どこまでも 森を伐り 谷を埋め……」と劇中で少し流れるあの歌を宮﨑さんが歌った。
「どう思いますか?」と自信なさげに聞く宮﨑さんに、「ひどいと思います」と正直に言った。
「そうですよね……」と少し落ち込んでいた様子だった。
「どうやったらあんな詩が書けるんですか?」ともう一度聞かれたけど、私にはやはり答えられなかった。
(「カントリー・ロードが生まれた日」より)